「工科デザイン研究」創刊に寄せて

本誌「工科デザイン研究」をここに創刊する。

本誌の意義は、発行母体である東京工科大学デザイン学部の理念と密接にかかわっている。東京工科大学は1986年、「豊かな教養と高度の学術を教授、研究し、もって社会の繁栄に貢献できる豊かな人間性と創造的知性を備えた実践的指導的技術者の育成」を建学の理念として開学し、以来この建学の理念のもと「実学主義教育」を基軸とした実践的な知識や技術の教育を行ってきた。当然2010年に開設されたデザイン学部もその理念に則り、感性教育とスキル教育を二本の柱に、問題解決のためのデザインを目指すデザイン教育を行い、多くの人材を世に送り出してきた。それは、理工系総合大学におけるデザイン教育の1つの到達点であると自負している。

日本における理工系総合大学のデザイン教育の歴史は古く、日本にデザインという概念が導入された明治初期、工部大学校における土木・造家教育にまで遡る。それはその後東京職工学校(現東京工業大学)における図案教育を経て、東京高等工芸学校(現千葉大学工学部)における産業デザイン教育へと発展していった。同校において教授された工業意匠は工業製品の設計や造形を担う、まさしく実学としてのデザインであった。そうしたデザイン教育のエッセンスは、デザイン学部のほかにコンピュータサイエンス学部、応用生物学部、メディア学部、工学部の4つの理工系学部を擁する東京工科大学に着実に継承されている。

当然ながらデザインには、問題解決と同時にクリエーターとしての表現、絵画や彫刻と同様のアートとしての側面もある。日本において、そうした観点からのデザイン教育はもっぱら美術学校が担ってきたが、本学デザイン学部は美術学校出身の教員を多数擁し、表現としてのデザインにも対応できる体制を整えてきたほか、複数の海外の大学と提携を結び、海外の先端的なデザインの思潮も積極的に取り入れている。この「実学としてのデザイン」と「表現としてのデザイン」を共に包摂し、展開する視点こそ、「工科デザイン研究」の目指すところである。

現在のデザインは複雑で多様化する社会に応じて極めて多岐に渡り、1人のデザイナーがすべてのデザインをつかさどることは不可能と言ってよい。この状況に対して、東京工科大学デザイン学部では、「視覚」「情報」「工業」「空間」の4つの区分を設けて研究指導を行っている。それはそのまま本誌「工科デザイン研究」の投稿区分に当てはまる。4つの区分のいずれでも、あるいはそれ以外でも構わない。学外にも広く門戶を開放し、「実学としてのデザイン」と「表現としてのデザイン」を包摂する「工科デザイン研究」の理念に共感する人の投稿をお待ちしている。